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アウトローな坊さんが弱者を救う『江戸の悪霊祓い師』

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祐天上人の肖像画

『江戸の悪霊祓い師』は掛け値なしにおすすめできる本。

1991年刊。初版から25年で改訂版が2回も出ています。

  •  1994年『新編 江戸の悪霊祓い師(エクソシスト)』
  •  2016年『補強版 江戸の悪霊祓い師』

たいていの本は寿命が短く、ベストセラーになっても1年後には飽きられて、中古屋に売られるか捨てられるかの運命です。

こんな長く読み継がれている本には、それだけの魔力があります。

なんたって学術書なのにめちゃくちゃ面白い。心躍る読書体験をしたのは久しぶりです。

 祐天上人がかっこいい

祐天は江戸時代の浄土宗の僧侶です。その一生はまるで少年漫画。

一度は所属する浄土宗教団を離脱しますが、呪術師として絶大な人気を集め、浄土宗教団のトップとして返り咲きます。

呪術師・祐天がもっともドラマチックな活躍をしたのは、祐天や村人から聞き書きした『死霊解脱物語聞書』にある「羽生村事件」でしょう。

奥関東の羽生村で、若妻の菊が累の怨霊に取り憑かれた事件です。

浄土宗教団を離れ、遊説に回っていた祐天が菊のもとへ駆けつけます。

まず、祐天は菊に「汝は菊か。累なるか」と尋ねました。

霊に取り憑かれている自覚があるかどうかを確かめるためです。

このように憑依の段階を見ながら対応していくやり方は、西洋のエクソシストに通じるそうです。(日本でいうところの悪霊は西洋の悪魔に相当するので興味深い話)

菊の状態がわかったところで連れの僧6人とともに祐天が除霊にあたりますが、いくら経を唱えても効果なし。

それでも祐天は一歩も引きません。

こともあろうに、天にいる阿弥陀如来に向かってタンカを切りました。

本当に仏がいますものならば、ただちにこの大事の場で、現証をあらわせ。自分に間違いがあれば、自分を蹴殺すがよい。さもなくば自分は仏教を棄てるのみか、外道の法を学んで仏教を破滅させるぞ、「……」

神仏が恐れられていた時代に、仏をdisるなんてとんでもない坊さんです。

一人の女性のために命をかける祐天はヒーローそのもの。

ちなみにこの「羽生村事件」は、のちに四代目鶴屋南北作の『色彩間苅豆』、三遊亭円朝の怪談噺『真景累ヶ淵』に続く、累説話のルーツです。

祐天の生い立ち

祐天の出生は伝説混じりではっきりしません。

『祐天大僧正御伝記』によれば、貧しい百姓の息子に生まれ、捨て子同然で寺に入ったとされています。

ところが祐天は物覚えが悪く、70日かけてもお経を一字も覚えられませんでした。

祐天の師・檀通もこれには呆れ果て、僧侶ではなく寺男に格下げします。

12歳の祐天は絶望して海に身を投げようとしますが、年長の徒弟・善長に助けられます。

善長から、「昔より此山にて無学の者は、此開山堂に断食して知恵を授かり、名僧となる事あり」という増上寺開山上人の伝説を聞いた祐天は、知恵を授かるため開山堂にこもって断食を開始。

二十七日間の過酷な断食修行を経て、霊能力に目覚めます。

しかし、人が変わったように学問と修行に精進するようになった祐天を、檀通は認ませんでした。相変わらず勘当僧として寺男の小屋暮らし。

祐天の能力が組織から異端扱いされていたことがわかります。

自由な立場で呪術師として活躍

浄土宗教団のメンバーが、悪霊祓いや憑きもの落しを行うことは禁じられていました。

勘当(半追放)された身だからこそ、祐天は教団からの制裁を受けずに呪術師活動ができたともいえます。

ここで筆者の高田衛氏は、教団が祐天人気にあやかりたくて追放しなかったのではないか、という仮説を立てています。

檀通の死後、増上寺に戻ってきた祐天には、何の役職も与えられませんでした。

このことから、祐天が教団を離脱して僧侶浪人になった理由も見えてきます。

祐天による女人救済

仏教では女性に「五障」があるため、男性より成仏が難しいという考え方があります。

そんな中、女性をはじめとする弱者を積極的に救ったのが祐天です。

民間の術者ではなく、浄土宗の僧侶が女性のケアにあたるのは画期的なことでした。

とくに出産において奇跡を起こす聖者として、庶民に圧倒的な人気でした。

その人気に目をつけたのが大奥のドン・桂昌院です。桂昌院はお世継ぎ出産のためのお抱えの術師として、祐天を幕府権力に取り込みます。

祐天も利用されることをよしとしていた、というきな臭さが残る話です。

まったくの聖人ではなく、少々うさんくさいところも我々の想像を掻き立てますね。

しっかり読み込みたい方に

面白いといっても論文なので、さくっと読める本ではありません。

難しい言葉や複雑な言い回しが出てきますが、脳みそのシワが増えると思えば……!!!

いまでこそ無名な祐天ですが、江戸時代から明治・幕末までスーパースターでした。

じつは最初に紹介した「羽生村事件」は、菊と累だけの話では終わりません。どのように解決に至るかを言ってしまうのは勿体ないので、ぜひ本書を手にとってほしいです。

創作畑の人なら、祐天を主人公にした漫画や小説を書きたくなること間違いなし。